「 じ ・ ぢ 」 「 ず ・ づ 」 の 四つ 仮名 は 、 室町 時代 前期 の 京都 で は それぞれ ʑ i , d ʲ i , zu , du と 発音 さ れ て い た が 、 16 世紀 初め 頃 に 「 ち 」 「 ぢ 」 が 口蓋 化 し 、 「 つ 」 「 づ 」 が 破 擦 音 化 し た 結果 、 「 ぢ 」 「 づ 」 の 発音 が それぞれ ʥ i , ʣ u と なり 、 「 じ 」 「 ず 」 の 音 に 近づい た 。
16 世紀 末 の キリシタン 資料 で は それぞれ 「 ji ・ gi 」 「 zu ・ zzu 」 など 異なる ローマ字 で 表さ れ て おり 、 当時 は まだ 発音 の 区別 が あっ た こと が 分かる が 、 当時 既に 混同 が 始まっ て い た こと も 記録 さ れ て いる 。
「 せ ・ ぜ 」 は 「 xe ・ je 」 で 表記 さ れ て おり 、 現在 の 「 シェ・ジェ 」 に 当たる ɕ e , ʑ e で あっ た こと も 分かっ て いる 。
漢語 が 日本 で 用い られる よう に なる と 、 古来 の 日本 に 無かっ た 合 拗音 「 クヮ・グヮ 」 「 クヰ・グヰ 」 「 クヱ・グヱ 」 の 音 が 発音 さ れる よう に なっ た 。
ただし 「 クヰ・グヰ 」 「 クヱ・グヱ 」 の 寿命 は 短く 、 13 世紀 に は 「 キ・ギ 」 「 ケ・ゲ 」 に 統合 さ れ た 。
漢語 は 平安 時代 頃 まで は 原語 で ある 中国 語 に 近く 発音 さ れ 、 日本語 の 音韻 体系 と は 別個 の もの と 意識 さ れ て い た 。
入声 韻 尾 の - k , - t , - p , 鼻 音韻 尾 の - m , - n , - ŋ など も 原音 に かなり 忠実 に 発音 さ れ て い た と 見 られる 。
鎌倉 時代 に は 漢字 音 の 日本語 化 が 進行 し 、 ŋ は ウ に 統合 さ れ 、 韻 尾 の - m と - n の 混同 も 13 世紀 に 一般 化 し 、 撥音 の ɴ に 統合 さ れ た 。
入声 韻 尾 の - k は 開 音節 化 し て キ 、 ク と 発音 さ れる よう に なり 、 - p も - ɸ u ( フ ) を 経 て ウ で 発音 さ れる よう に なっ た 。
室町 時代 末期 の キリシタン 資料 に は 、 「 butmet 」 ( 仏滅 ) 、 「 bat 」 ( 罰 ) など の 語形 が 記録 さ れ て いる 。
「 ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ・ヴュ 」 の よう に 、 これ まで 無かっ た 音 は 、 書き言葉 で は 書き分け て も 、 実際 に 発音 さ れる こと は 少ない 。
これ が 時代 とともに 統合 さ れ 、 江戸 時代 に は 5 種類 に 減っ た 。
上 二 段 は 上 一 段 に 、 下 二 段 は 下 一段 に それぞれ 統合 さ れ 、 ナ 変 ( 「 死ぬ 」 など ) ・ ラ 変 ( 「 有り 」 など ) は 四 段 に 統合 さ れ た 。
ただし 、 ナ 変 は 近代 に 入っ て も なお 使用 さ れる こと が あっ た 。
たとえば 、 「 山里 は 、 冬 、 寂し さ 増さり けり 」 という 文 において 、 「 冬 」 という 語 を 「 ぞ 」 で 受ける と 、 「 山里 は 冬 ぞ 寂し さ 増さり ける 」 ( 『 古今 集 』 ) という 形 に なり 、 「 山里 で 寂し さ が 増す の は 、 ほか で も ない 冬 だ 」 と 告知 する 文 に なる 。
また 仮に 、 「 山里 」 を 「 ぞ 」 で 受ける と 、 「 山里 ぞ 冬 は 寂し さ 増さり ける 」 という 形 に なり 、 「 冬 に 寂し さ が 増す の は 、 ほか で も ない 山里 だ 」 と 告知 する 文 に なる 。
当初 、 漢語 は 一部 の 識字 層 に 用い られ 、 それ 以外 の 大 多数 の 日本人 は 和語 ( 大和言葉 ) を 使う という 状況 で あっ た と 推測 さ れる 。
また 、 今日 で は 和語 と 扱わ れる 「 ほ とけ ( 仏 ) 」 「 かわら ( 瓦 ) 」 など も 梵語 由来 で ある と さ れる 。
西洋 語 が 輸入 さ れ 始め た の は 、 中世 に キリシタン 宣教師 が 来日 し た 時期 以降 で ある 。
元来 、 日本 に 文字 と 呼べる もの は なく 、 言葉 を 表記 する ため に は 中国 渡来 の 漢字 を 用い た ( いわゆる 神代文字 は 後世 の 偽作 と さ れ て いる ) 。